題名:何かが欠けている
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
その行為が地球の飢餓を救え。となったのかは分からない。分からないというより地球よりも自分の飢餓を救った。そういうことになる。
「それで、わたしには作ってくれないの? チキンラーメン。お腹空いてるけど…」
「でも、もう袋がないんだ。すでに残っていた1袋の賞味期限が切れていたから、それを僕が食べたんだ」
「ふ~ん。そうなんだ」
自分勝手な行為に、妻は少し不満そうだった。そして、ギューッと腕をつかまれた。思いっきり握られる。痛い、結構圧迫されている。手先の血流がトド凍りそうな、そんな冷たさを手先に感じた。トドが凍るなんて、あの難局に住んでいるトドが凍りそうなんて。これは南極だ。絶対的な南極的な難局だ。
「いたいよ…。しょんなにあっぱくしゅたらいたいよ…」
「タケヒサさん。すみません」
うっすらと瞼を起こすと、そこには若い看護師さんがいた。僕の手を縛って、どうやら血圧を測っているようだった。見ると、名札にはご丁寧に若葉マークがついていた。ということは新人さんなのだろうか。
「すみません。タケヒサさん。ぐっすり眠っているものとばかり思って、かなり正確に血圧を測ろうとしていたら…。すみませんでした。少し腕を圧迫しすぎましたね。ほんと、ごめんなさい」
その新人らしき看護師さんは何度も誤っていた。そうか、腕を圧迫していたのは妻ではなく、血圧計だったんだ。ようやく理解した。あたりを見回すと、もうそこには妻の姿は見えなかった。帰ったのだろうか…。
「かんぎょししゃん。しゅずこはどこかな」
「しゅずこ? ああ、奥様のシズコさんですね。つい先ほど帰られましたよ。あっ、そうそう。奥様からの伝言で、職場にはしばらく休むことをわたしから連絡したって、おっしゃっていましたよ」
「わかりまふぃた。ありぎゃと」
そしてその看護師さんは一通りの業務を終えて、「何かあったら押してくださいね。そのナースコールで」と言い残して、部屋を出て行った。
窓の外を見るとすでにあたりは暗くなっていた。時計の時間は確認できなかったが、この明かりだと今時分なら、すでに18時か19時頃だろうか。日中ハトがつけた糞がまだ窓にこびりついていた。それを確認して、僕はもう一度、その開いているか分からない瞼を閉じた。そして妻、シズコのことを考えた。
なんで夢ではいつも妻が変な風に表れるのだろうか。本心では、そんなはずはないはずなのに。そう思いつつ、僕は妻との過去を振り返っていた。
そうだ。僕にはやっぱり何かが欠けている。
それは何なのだろうか。妻に対する配慮…?
くっくどぅーどるどぅ。くっくどぅーどるどぅ。耳元でまた、あの妙なニワトリが泣いていた。くっくどぅーどるどぅと名札が付いたあのニワトリのことを。そしてニワトリの軍隊で最後尾に位置していた彼のことを反芻した。そう、銃を放ってはいなかった彼のことをだ。
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