題名:生ぬるい温かい池に浸されて
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
昨日に僕は、初めて電気けいれん療法なるものを受けた。花見医師からは麻酔下で行われ、苦痛はないとのことだった。確かに、苦痛はなかった。その前後も左右もよく覚えていない。麻酔の後からは、まったくの記憶がなかった。
妻は、相棒のプラひもに僕が電気けいれん療法を受けることをちゃんと伝えたのだろうか…。その不安に、なぜか頻繁に頬がぴくぴくとけいれんしている。そのけいれんが波打ったように顔全体に広まってゆく感じがする。それはまるで僕の顔が僕の顔でないような感覚だった。きっと何かの虫が皮膚の下で蠢いている。
顔の右の頬に手をやった。すると、そこでその虫はむにゅむにゅと蠢いている。僕はぐっとつまんでそれをつぶした。指の間から血が滴り落ちた。僕は一匹何かをつぶした。そして左の頬にも蠢いている。それをまたぐっとつかみ、ぶちゅっとつぶした。さらに一匹つぶし、指から血が滴り落ちた。
「やった。僕はやったんだ。虫退治をやったんだ」
僕は大きな声を張り上げた。その時、血相を抱えて男性の看護師さんが部屋に入ってきた。そして僕の手に紐(それはプラひもではなかったが)を巻き付け、体を固定した。そして身動きできなくなった頃に、花見医師が部屋に駆け込んできた。何か看護師に指示を出し、注射器を手に持つと、それを僕の固定された腕に刺した。
ちくんとした後、心地よい液体が体内に巡るのを感じて僕は眠気に襲われた。瞼が閉じるその最後に見えたのは、花見医師の苦笑いする顔だった。
窓からの光で目が覚めた。いつの間にか朝になっていたようだ。僕は起き上がろうとして体を起こした。が、手と足が、それに胴体が縛られて拘束されている。そして起き上がることができない。
僕はわめいた。
看護師さんが来た。彼女はこうなった事情を僕に話してくれた。でも、事情を話されても、僕は一つもおかしくないはずだ。ただ、顔の虫退治しただけなんだと伝えたが、一向に聞き受け入れてくれなかった。尿意を感じて、トイレに行きたいと彼女に嘆願した。そこでしても大丈夫と返事が返ってきた。そこでしても大丈夫? どういうことなんだ。パンツが濡れちまうじゃないかと激怒した。
が、大丈夫です。八度さんは今オムツしてますので、とのことだった。オムツ? どういうことなんだ。しょーべんぐらい自分でできる。この前まで自分でしてたじゃないかと声を荒げて体を揺り動かした。ベッドがガタガタと揺れた。でも、そこでしてくださいね、と再び言われた。僕は、その言葉にだんだんと我慢できなくなり、涙目の感情で浸されて、そこでしょーべんをした。じわりと股間部分に妙な温かさを感じ、ぶるった。それでも尿意は止まらずに、それからどんどんとあふれ、僕は池の中にいるみたいな気持ちなった。
生ぬるい温かい池。
僕は、生ぬるい温かい池に浸されている。
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